2012年3月5日

5.2 コンディショナリティーの特性から見るENPの解釈

EUでのコンディショナリティーの起源は明瞭な加盟への前提条件を定義したコペンハーゲン基準にまでさかのぼります。[186]よってEUによって課されるコンディショナリティーの適用は1990年代以来EU加盟希望国が加盟を準備できるようにするためのEU東方拡大と関連しています。[187]
コンディショナリティーという用語を解釈する場合、それは「アメとムチ」または損益計算に基づいた外部インセンティブモデルなどとして多くの学術論文で説明されています。[188] この説明はEU東方拡大と欧州近隣政策(ENP)との間におけるコンディショナリティーの影響を比べる場合に適切です。この場合、ENPはそのEU加盟というインセンティブの欠如のために東方拡大ほど有効ではありません。しかしこの節でEUとウクライナのようなENP加盟国との関係を映し出すコンディショナリティーの特性を念入りに吟味するため、コンディショナリティーの概念を明確に示している国際通貨基金(IMF)からその概念と原則を拝借することにします。おそらくコンディショナリティーという用語はIMFが加盟国を救済するときに数十年にわたって使用されてきました。金融危機の際に危機を克服するためにIMFは厳格な手段を破産寸前の国家に課してきました。この理由によってIMFコンディショナリティーはおそらくそれが1952年に最初に用いられて以来IMFにおける最も議論を呼ぶ政策のひとつとなっています。[189]前IMF業務執行取締役のブイラはコンディショナリティーという用語を「対策プログラムが履行されていることを確実にするために外部からの政策を行使するための援助及び試みを提供する手段である」と定義しています。[190] 彼の定義は最も説得があるように思われるため、この定義とニュアンスをEUとENP加盟国との関係を取り扱うEUコンディショナリティーへも当てはめてみましょう。この文脈ではENP加盟国はEUが提案し、それをENP加盟国が適切を納得したベストプラクティスを実行しなければなりません。よって実際にはENP加盟国はEUからの援助と引き替えに国内の政策を調整しなければなりません。
コンディショナリティーの特性として、確かな政策の適用と引き替えに金銭的、政治的なインセンティブを提供するEUのような外部の力による介入は国家の主権を侵害する可能性があります。アクションプランは共有の合意とENP加盟国の意志によって合意されるものではありますが、[191] 適切と思われるベストプラクティスとしてのEUの基準、EUの価値観、EUの規範、コペンハーゲン基準というような外的要因は国内政策の結果へ影響力を行使することを追求するため、コンディショナリティーは押つけがましく見られることがあります。この特性の背景には豊かで力のあるEUと貧窮して弱いENP加盟国の力関係が理由となっています。この力関係に関してオルセンは援助とEUの基準を受け入れる必要性は力の差異を示唆するというコンディショナリティーの影響力の側面を指摘しています。[192]またサッセはコンディショナリティーの概念は力の非対称性に依存すると論じています。「インセンティブと施行の構造が両者においてより明確でないというENPの文脈上、EUと加盟候補国との関係を特徴付ける力の非対称性はあまり明白ではない」と彼女は指摘しています。[193] さらにブイラは「コンディショナリティーは親や先生が子供を自身の思惑によって指導するパターナリズム(父権主義、温情主義)のように、ある国がその国にとって良いと思われる方向へ導かれる一種の父と子の関係である」とも論じています。[194] この力関係を考慮すると、EUがなぜロシアをENPの枠組みに入れずに対等関係に基づいた「戦略的パートナー」[195]という別の概念を利用しているという理由のひとつがコンディショナリティーの特性によって説明できます。明らかにEUにとってコンディショナリティーを強力なパートナーへ課すことは困難で、EUはEUの規範や価値を共有できない強いパートナーにはコンディショナリティーを課すことはできないのです。これはコンディショナリティーの特性であり前提条件でもあります。もしコンディショナリティーがうまく機能する場合、ENP加盟国はEUと比べて政治的、経済的に遙かに貧窮しており、彼らはEUの統治方法がよいものであると納得している必要もあります。
EUは公式にはENP加盟国に条件を強いることは追求しないとしていますが、[196] EUのベストプラクティスに基づいたよい政策を実行するためのENP加盟国の技術的知識、経験、金融資源が欠如しているという現状、EUがENP加盟国を支援するための専門家と資源を持ち合わせている現状において、このコンディショナリティーの親と子の関係にあたる概念はまさにEUの先導によるアクションプランの場合となりえるものです。よってアクションプランは対等な両者の合意というよりはむしろ医師による処方箋もしくは更生計画として解釈することができます。さらにコンディショナリティーはENP加盟国にとってENPそのものの目的を達成するために必ずしも必要でない要素をアクションプランの政策工程として課するかもしれません。これらの要素はEUの加盟国によって提案され、ENP加盟国ではなくEU加盟国の利益であるかもしれないのです。EUはコンディショナリティーの概念をEUの東方拡大とあわせて採用したという事実を考慮すると、アクションプランの履行はすべてのEU加盟国の国益が含まれているコペンハーゲン基準とアキ・コミュノテールへの接近を意味します。この仕組みもしくはコンディショナリティーの特性としての命令的な力はオルセンが「欧州モデルの拡大が時に現実問題として植民地化、強要、強制の様相を呈する」という欧州機関の非EU加盟国を対象としたEU域外への輸出としての欧州化として定義するひとつの場合として解釈することができます。[197] さらにこれはまたマナーズが国家の主権を侵害することを欲する「規範的支配力の欧州(Normative Power Europe)」とEUを表現した場合にも相当します。[198] この欧州化としてのコンディショナリティーの支配力は議論を引き起こすものとなっています。

[186] Albi, A. (2009). p.211
[187] Wolczuk, K. (2009). p.190
[188] Grabbe, H. (1999). p.8, Noutcheva, G., Tocci, N., Coppieters, B., Kovziridze, T., Emerson, M., & Huysseune, M. (2004). pp.29-30, Trauner, F. (2009). p.776, Maier, A. (2008). pp.71,72,74,86, Gstöhl, S. (2008). pp.139-142, Briens, M. (2008). p.215, Högenauer, A.-L., & Friedel, M. (2008). pp.267-268, Schimmelfennig, F. (2005). p.831, Kochenov, D. (2007). p.469, Manners, I. (2002). p.245
[189] Buira, A. (2003). pp.1-2
[190] Ibid. p.3
[191] European Commission. (2004, 05 12). European Neighbourhood Policy Strategy Paper. p.8
[192] Olsen, J. P. (2002). p. 939
[193] Sasse, G. (2008). pp.302-303
[194] Buira, A. (2003). p.12
[195] Mahncke, D. (2008). p.22
[196] European Commission. (2004, 05 12). European Neighbourhood Policy Strategy Paper. p.8
[197] Olsen, J. P. (2002). pp.924, 938
[198] Manners, I. (2002). p.252

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目次

はじめに 1.序論 2. ロシアとしてのソビエト連邦との歴史的関係 2.1 ウクライナ国家の形成とその余波 2.1.1中央ラーダとウニヴェルサール 2.1.2 ヘトマン 2.1.3内戦とディレクトーリヤ 2.2 ウクライナ・ソビエト社会主義共和国の成立...